心房中隔欠損症(atrial septal defect : ASD)
心房中隔とは右心房と左心房の間を隔てる壁のことで心筋でできています。 心房中隔欠損は、この中隔の部分に穴が空いて欠損している状態です。
通常は左心房の方が右心房よりも圧が高いので、左心房から右心房へ血液が流れます(左右シャント)。そのため、右房の血液の量が増え(容量負荷)、徐々に右心房、そして右心室が拡大することで、心不全や不整脈を引き起こします。
欠損の仕方には種類があり、欠損のある部位で分類されています。
心電図変化
右室負荷所見
右室負荷として右軸偏位、右脚ブロック、陰性T波が見られます。中でも不完全右脚ブロックは心房中隔欠損症で一番よく認められる心電図変化です3)。
一次孔欠損型心房中隔欠損症では僧帽弁閉鎖不全症を合併することで左軸偏位を認めることがあります。
孤立性陰性T波(Isolated negative T waves)
孤立性陰性T波は「isolated negative T waves」や「late phased dart T」とも呼ばれ、胸部誘導で一度陽性になったT波が特定の誘導でのみ陰性化していることを指します4)。
小児例ではV3~V4誘導の孤立性陰性T波を認め、二次孔欠損に特徴的な変化とされてますが、感度は高くありません。
右室負荷による再分極の異常を反映していると考えられていますが、なぜ一部の誘導のみに限局するかは明らかではありません。
crochetage pattern
下壁誘導(II・III・aVf 誘導)におけるR波のnotchのことであり、QRS波の始まりから80msec内に含まれ、R波の上行枝や頂点近くで急速に上下し、典型的にはM型もしくは二分するような波形と定義されています2)。
「crochetage」という用語はフランス語の “かぎ針 “に由来しており、ノッチの形が編み物のかぎ針に似ていることからこのように呼ばれています。
シャントの重症度と相関し、感度および特異度は、右脚ブロックと関連している場合、またはすべての下壁誘導に存在する場合に際立って高いです。
crochetage patternは右心室の脱分極遅延に関連しており、興奮が右室から心房中隔を通過して左室に到達する際の遅れを表しているとされています6)。
参考文献
1)Transcatheter Closure of Atrial and Ventricular Septal Defects: JACC Focus Seminar. J Am Coll Cardiol. 2022 Jun 7;79(22):2247-2258.←ASDおよびVSDの経カテーテル的閉鎖術の現状
2)Crochet Leads the Way. JACC Case Rep. 2023 Apr 7;13:101814.
3)“Crochetage” (notch) on R wave in inferior limb leads: a new independent electrocardiographic sign of atrial septal defect. J Am Coll Cardiol. 1996 Mar 15;27(4):877-82. ←crochetage patternが3つの下壁誘導全てに認められた場合の特異度は92%
4)Analysis of T wave changes by activation recovery interval in patients with atrial septal defect. Int J Cardiol. 2000 Jul 31;74(2-3):115-24.←心房中隔欠損症における右室容量負荷は、右室心外膜上で局所活動電位持続時間の延長を生じることを示唆
5)Crochetage, the Forgotten Electrocardiographic Sign. Cureus. 2023 Oct 4;15(10):e46498.←crochetage patternはASD患者に最もよくみられるが、卵円孔開存、肺塞栓症、右室肥大、動脈管開存症などの他の疾患でもみられ感度は比較的低い
6)Think beyond right bundle branch block in atrial septal defect. Ann Card Anaesth. 2017 Oct-Dec;20(4):475-476.←卵円孔開存とcrochetage patternのある患者は、crochetage patternのない卵円孔開存患者よりも脳梗塞を起こしやすい
書籍
心電図マイスターを目指す基礎力grade up講座 P97-98
心電図の読み方パーフェクトマニュアル P344-345
実力心電図 P284-285