時計方向回転(clockwise rotation)

移行帯がV6側に偏位している状態を時計方向回転(右回転)と呼びます。また、「移行帯が遅い」と表現されることもあります。時計方向回転のみであれば病的意義はほとんどありません。

時計方向回転は横断面(水平面)で足側から心臓を見あげた際に、心室中隔を時計の針に見立てた時に針が進む方向(時計方向)に心臓の移行帯が回転(rotation)している状態ですが、実際には心室中隔と移行帯は一致しないことも多いと言われています。

定義
臨床的には「移行帯がV5以降に存在する場合を時計方向回転」と定義されることが多いですが、疫学研究などで使用されるミネソタコードでは「移行帯がV4以降に存在する場合を時計方向回転」と定義しています。そのためV4〜V5に移行帯が存在する時は文献によって扱いが異なっており、目的に応じて使い分けられています。

V4/V5付近の移行帯は臨床教科書2,3)では正常変異とみなされることが多いですが、ミネソタコードでは時計方向回転に分類されます。
原因
時計方向回転は電気活動の変化による偏位なので、物理的に心臓が回転していなくても発生します。例えば体格や心臓の位置などの物理的要因だけではなく、心筋症や心筋梗塞などの心室の興奮ベクトルの変化による電気的要因で移行帯は時計方向へと偏位します。

物理的要因
肥満
肥満では腹部脂肪の増加により横隔膜が押し上げられ、心臓が横向き(横位心)になります。この位置変化が、胸部誘導の移行帯を時計方向にずらす要因になるとされています。
COPD
COPDでは肺が過膨張することで横隔膜が低下して心臓が下方・垂直方向へ引き伸ばされ滴状心と呼ばれます。これに肺高血圧による右室拡大が加わることにより心室の興奮ベクトルが偏位することで胸部誘導でR波の増高が遅れます。
右室拡大
右室が拡大すると心室中隔と左室が時計方向に押しやられます。特に急性肺塞栓症などの急性の右室負荷では変化が著明になります。その結果として移行帯がV6誘導方向にずれ、時計方向回転を呈します。
電気的要因
前壁中隔梗塞
前壁中隔梗塞では、中隔〜前壁の心筋が壊死するため、前胸部方向への起電力が低下します。その結果V1〜V3(V4)でR波が増高しにくくなり移行帯がV6誘導方向ににずれます。
拡張型心筋症
拡張型心筋症では左室が全体的に拡大します。これにより水平面では心室中隔がV6誘導方向にシフトし、移行帯が左方であるV5以降にずれやすくなります。直感的には左室が拡大すれば中隔が右室側に押しやられるように感じますが、移行帯を判断する水平面においては左方シフトが優位に働きます。
WPW症候群(B・C型)
WPW症候群のB・C型では右室側の副伝導路から早期興奮が始まるため、右室が先に興奮して左室の興奮が相対的に遅れます。その結果、胸部誘導でR波の増高が遅れ、移行帯が左方(V5以降)にずれる時計方向回転のパターンをとりやすくなります。
予後
移行帯の時計方向回転のみでは病的意義は少ないとされています。ただし、健常人における時計方向回転は心血管疾患死亡や全死亡リスクの上昇と関連していると報告されています4)。
参考文献
1)Electrocardiographic changes in Emphysema. World J Cardiol. 2021 Oct 26;13(10):533-545.
2)Goldberger’s Clinical Electrocardiography
3)Chou’s Electrocardiography in Clinical Practice
書籍
今さら聞けない心電図 P98-99
心電図のみかた、考え方 基礎編 P258-262
心電図マイスターによる3→1級を目指す鑑別力grade up演習 P19-20

