上室期外収縮(Supraventricular premature contraction:SVC)
上室期外収縮とは心房の洞結節以外の場所から、本来の洞結節からの興奮より早期に興奮が出現することです。
上室期外収縮は、心周期の次の洞性P波が発生する前に出現し、洞性P波とは異なる形態を持つP波として観察されます。
PR間隔は洞調律時とは異なることが多く、期外収縮の発生部位によって長くなったり短くなったりします。これは房室結節までの距離が関与しています。期外収縮の発生部位が房室結節まで近ければその分PR間隔は短くなります。
左心房から発生した心房期外収縮は、右心房から発生した心房期外収縮よりも一般的に伝導時間が短いです2) 。
P波は異所性ですが、房室結節から心室を興奮させるまでの経路は洞調律の場合と変わりないのでQRS波は通常の波形と同じになります。
起源の推定
上室期外収縮は各誘導のP波の形から起源をある程度推定することができます。
V1誘導は右心に近い誘導であり、右房が前側、左房が後ろ側に位置しているため、V1誘導で単相性の陽性P波が見られた場合、V1誘導へ向かってくる方向なので左房に起源があります3)。逆に、V1誘導で単相性の陰性P波が見られた場合、V1誘導から遠ざかる方向なので左房に起源があります。
I誘導とaVL誘導の極性は右肺静脈と左肺静脈の鑑別に有用であり、陽性であれば右肺静脈に起源があります4)。
Ⅱ誘導、Ⅲ誘導、aVF誘導で心房の上方からの起源と下方からの起源を鑑別します。
それぞれの誘導を利用することでP波の起源を具体的に推定することができます。
上記以外にもP波の形から起源を推定する様々なアルゴリズムも考案されています。
伝導様式の違い
洞結節は上室期外収縮によってリセットされます。そのため不完全代償休止期を伴い、通常のPP周期の2倍以内にP波が出現します。
心室内変行伝導を伴う上室期外収縮
上室期外収縮による興奮が右脚の不応期の間に伝導した場合、P’波に続くQRS波は右脚ブロックパターンになります。これは左脚よりも右脚の不応期が最も長いため、左脚が先に不応期から回復することで生じる現象です。
非伝導性上室期外収縮
先行する洞調律による房室結節の不応期に心房期外収縮が生じると興奮が心室へ伝導されずにブロックされます。これを非伝導性上室期外収縮と呼びます。
参考文献
3)P-wave morphology in focal atrial tachycardia: development of an algorithm to predict the anatomic site of origin. J Am Coll Cardiol. 2006 Sep 5;48(5):1010-7.←V1誘導の+または-/+のP波は左房起源の100%の感度
4)Morphological characteristics of P waves during selective pulmonary vein pacing. J Am Coll Cardiol. 2001 Nov 1;38(5):1505-10.←肺静脈からのペーシングを参考にP波の起源を推定。II誘導のP波がノッチ状であること、III/II誘導の振幅比も左右の肺静脈の鑑別に有用。
4)P-Wave Morphology in Focal Atrial Tachycardia: An Updated Algorithm to Predict Site of Origin. JACC Clin Electrophysiol. 2021 Dec;7(12):1547-1556.←P波アルゴリズムの診断精度は93%。ATの発生部位も図示。
書籍
ほぼ初めての心電図 P160-176
心電図マイスターを目指す基礎力grade up講座 P17-19
心電図の読み方パーフェクトマニュアル P250-256
心電図マイスターによる3→1級を目指す鑑別力grade up演習 P58-59、117-120