Wenckebach現象(Wenckebach phenomenon)
Wenckebach現象は、興奮の伝導時間が徐々に延長していき、興奮の非伝導が生じる現象を指します1)。伝導が途絶した後はまた伝導が回復し、徐々に伝導が延長するという周期を繰り返します。この周期をWenckebach周期と言います。
Wenckebachは心電図機器が登場する以前の1899年に頸静脈の脈拍波形からこの現象を発見しました2)。これが心電図でいうWenckebach型Ⅱ度房室ブロックの所見です。
1906年には頸静脈の脈拍波形からMobitzⅡ型Ⅱ度房室ブロックの所見も観察しています。その後、心電図機器が登場し、Mobitzが上記2種類の房室ブロックをⅠ型とⅡ型に分類しました3)。
房室結節でのWenckebach現象(Wenckebach型Ⅱ度房室ブロック)が典型的ですが、刺激伝導系の洞結節・ヒス束・脚でも認める現象です。
Wenckebach現象のメカニズム
相対不応期に脱分極を繰り返すことでWenckebach現象が生じます。房室結節が相対不応期中に脱分極すると、その強度/振幅が減少し、持続時間が長くなります。これにより、心房興奮の心室への伝導が遅れることでPR間隔が長くなります。最終的には絶対不応期に脱分極が起こり、P波は伝導されません。
興奮が伝導されなくなるまでのWenckebach周期の中で、伝導遅延の程度は徐々に減少します。
Wenckebach型の房室ブロックではPR間隔が延長します。RR間隔に関しても延長するように思われますが、伝導遅延の程度が徐々に減少するためRR間隔は短縮します。
RR間隔は(洞結節の興奮周期)-(前のPR間隔)+(後のPR間隔)で計算できます。この式を変形すると(洞結節の興奮周期)+{(後のPR間隔)-(前のPR間隔)}となります。(後のPR間隔)-(前のPR間隔)はPR間隔の延長の程度を表しています。
PR間隔が延長の程度は徐々に減少するため、RR間隔は減少することになります。
参考文献
1)The Wenckebach phenomenon. J Emerg Med. 1986;4(2):115-8.
2)Wenckebach KF. Zur Analyse Des Unrezelmasigen Pulse. II. Uber Den regelmasig intermitterenden Pulse. Zscher Klin Med. 1899; 37:475.
3)Hay J: Bradycardia and cardiac arrhythmia produced by depression of certain of the functions of the heart. Lancet 1906; 1: 139–143