心アミロイドーシス(cardiac amyloidosis)
心臓の間質にアミロイド線維が沈着し、形態的かつ機能的な異常をきたす病態を心アミロイドーシスと呼びます1)。心アミロイドーシスをきたす主要な病型は,ALアミロイドーシスとATTRアミロイドーシスに大別されます。
心電図所見
心アミロイドーシスでは、アミロイド蛋白の沈着が間質や刺激伝導系に起きることによって心電図異常をきたします。しかしながら、いずれの所見も心アミロイドーシスに特異的な所見ではありません。
低電位(low QRS voltages:LQRSV)
低電位の基準として、「全ての四肢誘導が≦0.5mVまたは全ての胸部誘導が≦1.0mV」を用いている報告が多いです。低電位は心アミロイドーシス患者の60%で観察され、ALアミロイドーシスではより頻度が高いとする報告もあります3)。
偽梗塞パターン(pseudoinfarction patterns)
偽梗塞パターンは、虚血性心疾患の既往がなく、連続する2誘導での異常Q波(R振幅の1/4)またはQS波が存在することと定義されます5)。R波増高不良を認める場合もあります。主に前胸部誘導で見られ6)、 心室中隔の厚みが増すにつれて徐々に増加するとの報告もあります7)。
伝導障害(conduction disturbance)
刺激伝導系にアミロイド沈着を伴うことにより、房室ブロックや心室内伝導障害を認めることがあります。
心房細動
アミロイド線維は心房内に沈着しやすく、心房細動は心アミロイドーシスで最もよくみられるリズム障害です9)。特にATTRwtアミロイドーシスで頻度の高い所見です。
QT延長
頻度は不明ですが、多くの例でQT時間が延長していることが報告されています。
参考文献
2)Cardiac amyloidosis: An update on diagnosis and treatment. Cleve Clin J Med. 2017 Dec;84(12 Suppl 3):12-26.←心アミロイドーシスのレビュー
3)Low QRS Voltages in Cardiac Amyloidosis: Clinical Correlates and Prognostic Value. JACC CardioOncol. 2022 Sep 7;4(4):458-470.←低電位は心アミロイドーシスの進行した病期を反映しており、心血管死亡の独立した危険因子であった。
4)Amyloid heart disease module 1: diagnosis. The British Journal of Cardiology. April 2021
5)Utility and pitfalls of the electrocardiogram in the evaluation of cardiac amyloidosis. Ann Noninvasive Electrocardiol. 2022 Jul;27(4):e12967.←典型的な心電図所見のない心アミロイドーシスの3症例
6)Clinical correlates and prognostic values of pseudoinfarction in cardiac light-chain amyloidosis. J Cardiol. 2016 Nov;68(5):426-430.←偽梗塞はAL患者の独立した予後増悪因子。偽梗塞の部位別では予後の有意差は認められなかった。
7)Clinical, ECG and echocardiographic clues to the diagnosis of TTR-related cardiomyopathy. Open Heart. 2016 Feb 8;3(1):e000289.←ATTRにおける心室中隔の肥大と関連する臨床的徴候
9)Electrophysiological Manifestations of Cardiac Amyloidosis: JACC: CardioOncology State-of-the-Art Review. JACC CardioOncol. 2021 Oct 19;3(4):506-515.←心アミロイドーシスでは心房細動は診断時に患者の70%程度に認められる。