左脚ブロック(left bundle branch block)
心筋の興奮は洞結節、心房、房室結節、ヒス束、左脚・右脚、プルキンエ線維の順に伝わります。
左脚ブロックではヒス束から伝わった刺激は左脚に伝導されず、右脚のみに伝導されることで右室の興奮が先に起こり、その後に左室へ興奮が伝えられます。従って、左室の興奮は右室より遅れることになり、遅れた分だけQRS波は幅広く変形します。特にQRS波の後半部分がwideになります。
右脚は細い1本の線維であるのに対して左脚は太くて網目状の線維構造になっており、左脚は右脚に比べると伝導途絶がおこりにくくなってます。
左脚には前枝と後枝が含まれており、ヒス束では右脚と合わせて3つの線維が合わさっています。左脚ブロックでは左脚前枝・後枝の線維が途絶(縦方向の解離(Longitudinal dissociation))しています。
ちなみに、上図のようにヒス束からは最初に左脚後枝が枝分かれし、次に左脚前枝と右脚に枝分かれします。
左脚ブロックの心電図
まずは房室結節からの興奮が右脚に伝わり、右室前乳頭筋の近傍から興奮(breakthrough)するのでV1、V6で陽性波となります。
右室から中隔に向けて興奮が広がっていきます。そのためV6ではseptal qが見られません。
中隔から左室に向かって興奮が伝わり、V1誘導は陰性波、V6誘導は陽性波となります。
右室へは刺激伝導系を介さずに興奮が伝わるため、緩やかに伝導します。V1で陰性波、V6で陽性波となります。
作業心筋を緩やかに伝導しますのでV1で幅の広いS波、V6で幅広いR波となります。
このようにして左脚ブロックの心電図波形が出来上がります。典型的にはV1でrS波、V6でノッチ、スラーを伴う幅広いR波が見られます。
二次性のST変化として、V1でST上昇、V6でST低下が見られます。
ノッチ・スラーが生じるメカニズム
左脚ブロックではⅠ、aVL、V5、V6誘導にノッチまたはスラーを伴います。メカニズムとしては右から左への中隔の脱分極は広いA-B波面を作りますが、興奮が左室の中央部(左室内腔)に達すると、R波の頂点のノッチの原因となる波面の幅(A′-B′)が著しく減少し、次に波面は左室自由壁に達して、波面の幅(A′-B′)を再び増加させることで、R波の第2の頂点の原因となります3)。
最初のノッチは脱分極の波が中隔を通過した後に左室心内膜に到達するとき、2番目のノッチは脱分極の波が後側壁の左室心外膜に到達し始めるときに生じています4)。
左脚ブロックの診断基準
文献によって診断基準は異なりますが、代表例としてアメリカのガイドラインの左脚ブロック診断基準を紹介します。
完全左脚ブロック(complete left bundle block : CLBBB)
完全左脚ブロックはQRS幅が120msec以上であり、左脚の伝導が途絶している状態です。
不完全左脚ブロック(incomplete left bundle block : CLBBB)
不完全左脚ブロックはQRS幅が120msec未満であり、左脚の伝導が完全には途絶しておらず、伝導が遅延している状態です。
参考文献
1)Left Bundle Branch Block-Induced Cardiomyopathy in a Transplanted Heart Treated With His Bundle Pacing. JACC Case Rep. 2020 Aug 12;2(12):1932-1936.←移植心臓における左房ブロック誘発性心筋症の症例報告
4)Defining left bundle branch block in the era of cardiac resynchronization therapy. Am J Cardiol. 2011 Mar 15;107(6):927-34.←LBBBの波形の2つのノッチ間でQRS振幅に変化が少ないのは、脱分極が左室腔を通過しないため、興奮のベクトルの大きさと方向がほぼ一定に保たれるから
心電図の読み方パーフェクトマニュアル P94-95
ほぼ初めての心電図 P124-138
あなたが心電図を読めない本当の理由 P21-27