移動性ペースメーカ(wandering atrial pacemaker)

調律の興奮発生部位が洞結節や心房の他の部位に移動し、移動する部位が3ヶ所以上存在するものを移動性ペースメーカと呼びます。移動する部位が2ヶ所の場合はペースメーカ移動と呼ばれます。

移動性ペースメーカは英語で「wandering atrial pacemaker」と呼ばれており、「wandering」は「さまよう」「歩き回る」を意味しています。ペースメーカ部位が心房をさまよっている様に見えることを表現しています。

移動といっても興奮部位が少しずつ移動していくわけではなく、異なる部位同士からの興奮が心房を伝導していく割合が変化します。

2点から同時に興奮が出現した場合はP波は融合した波形となりますが、1種類のP波とはみなしません。連続的に変化していくためにP波の違いが分かりにくいこともあります。

健常な小児、高齢者、アスリートで見られ、病的意義はないとされています。職業が関与するとの報告もあり、フレンチホルン奏者は演奏中に移動性ペースメーカを高い割合で発症しているという報告もあります2)。
参考文献
1)Wandering atrial pacemaker associated with repetitive respiratory strain. Cardiology. 1982;69(2):70-3.← バルサルバ法での移動性ペースメーカの発生率は、ボディビルダーでほぼ2倍
2)Wandering atrial pacemaker (prevalence in French hornists). J Electrocardiol. 1976;9(1):51-2. ←金管楽器の中でもフレンチホルンかつ演奏歴が長いほど発症率が上がった。
書籍
心電図の読み方パーフェクトマニュアル P74-75
今さら聞けない心電図 P126
心電図マイスターによる3→1級を目指す鑑別力grade up演習 P16
心電図免許皆伝 P119-120