Aslanger’s sign
Aslanger’s signとは、動脈の拍動による心電図アーチファクトを指します1)。arterial pulse–tapping artifactとも呼ばれています2)。同じAslangerの名前がついた心筋梗塞のパターンであるAslanger’s patternとは別物です。

機序
肢誘導の電極(右手・左手・左足)が橈骨動脈や後脛骨動脈の拍動部位の上に置かれたときに起こります。動脈の拍動が電極を機械的に動かして皮膚との接触が心拍ごとに変化することで電位に乱れが生じます。特に高拍出状態(貧血、甲状腺機能亢進、透析シャントなど)で起こりやすいです。

心電図所見


ST-T変化
心拍と同期しておりQRS波の後に一定の間隔で出現します。非生理的なST-T変化(急峻な立ち上がり・立ち下がり、広い深いT波様変化など)が生じます。QRS波とアーチファクトの間隔に関しては、心臓が収縮してから末梢動脈に脈波が到達するまでにかかる時間が影響しています。心周期の図からも分かるようにR波のピークから大動脈の脈波の立ち上がり〜ピークまでは時間がかかります。

さらに末梢動脈の脈波との関係に関しては、ABI(足関節上腕血圧比)検査時の心電図と脈波を比較するとわかりやすいです。
誘導
アーチファクトは主に肢誘導で目立ちますが胸部誘導にも出現します。肢誘導のうち1つの誘導だけが正常波形を示すのが最大の特徴です。



ここで例えば右上肢の電極が原因のアーチファクトを考えた場合、I・II誘導だけでなくaVR・aVL・aVF誘導にも影響する理由は、これらの誘導がすべて右上肢の電位を計算に使用しているためです。

- I・II誘導の定義そのものが「−右手」を含みます。右手の電極にアーチファクトが生じると、そのまま電位差として大きく出現します。
- aVR誘導はほぼ右手そのものを見ている誘導なのでアーチファクトは最も強く出現します。
- aVL・aVF誘導は計算式の中に「−右手/2」の項があり、アーチファクトが半分の大きさで出現します。
- III誘導は左手と左足だけの電位差なので右手のアーチファクトは理論上出現しません。
また、胸部誘導に関してもアーチファクトの影響を受けます。これは胸部誘導(V1〜V6)がWilsonの中心電極を基準点(負極)として使っているからです。
右手の電極にアーチファクトが生じるとWilsonの中心電極にそのアーチファクトが1/3の大きさで混入します。 その結果、胸部誘導には理論上、肢誘導で見られるアーチファクト振幅の約1/3の大きさで影響が現れます。

参考文献
3)Aslanger’s sign in 12-lead electrocardiogram. Oxf Med Case Reports. 2023 Mar 25;2023(3):omad017.

