房室回帰性頻拍(atrioventricular reentrant tachycardia:AVRT)
心房と心室は刺激伝導系でつながっていますが、副伝導路がある場合に心房、房室結節、心室を含んだ大きなリエントリー回路が形成されて頻拍発作が生じます。
順方向性房室回帰性頻拍(orthodromic AVRT:ORT)
房室回帰性頻拍の約90%は順方向性房室回帰性頻拍で、興奮は房室結節を順方向(心房→心室方向)に伝導し、副伝導路(Kent束)を逆行性(心室→心房方向)に伝導します。順行伝導は房室結節から刺激伝導系を通って心室へ興奮を伝えるためnarrow QRSとなります。
順方向性房室回帰性頻拍では、通常ST部分の初期に逆行性のP波が見られます1)。P波は先行するQRS波の近くに位置するため、このshort RP’と言われます。
逆方向性房室回帰性頻拍(antidromic AVRT : ART)
逆方向性房室回帰性頻拍は心房→Kent束を順伝導→心室→房室結節を逆伝導→心房の順で旋回し,wide QRS頻拍を呈するAVRTのことです。
刺激伝導系ではなく副伝導路の付着する心室筋に興奮が伝わるためwide QRSとなり心室頻拍のような波形になります。preexcitation AVRTとも呼ばれます。
そのほかの副伝導路としてはマハイム束(Mahaim fiber)が存在し、右心房と右脚をつなぐ線維です。マハイム束は順向性のみ伝導し、減衰伝導の特性を持ちます。この線維が関与するAVRTは順向性にマハイム束を伝わり、逆行性に房室結節を上昇するので逆方向性房室回帰性頻拍(antidromic AVRT)となります。刺激伝導系である右脚に興奮が伝わるためnarrow QRSとなります。
動悸の既往や上室性頻拍の既知の患者において、洞調律時にIII誘導にrS波が出現するパターンは、病因としてマハイム束の存在が疑われます2)。
Bidirectional AVRT
副伝道路が2つ存在し、心房→副伝導路を順伝導→心室→別の副伝導路を逆伝導→心房の順で旋回し、wide QRS頻拍を呈するAVRTのことです。比較的稀な疾患であり、duodromic tachycardiaとも呼ばれます3)。
参考文献
1)Atrioventricular Reentrant Tachycardia. AACN Adv Crit Care. 2017 Summer;28(2):223-228.←AVRTのレビュー
2)The electrocardiogram during sinus rhythm and tachycardia in patients with Mahaim fibers: the importance of an “rS” pattern in lead III. J Am Coll Cardiol. 2004 Oct 19;44(8):1626-35.←III誘導にrSパターンが存在する場合、75%でI誘導にq波はみられなかった
3)Duodromic tachycardia: A case report of a rare presentation of wide complex supraventricular tachycardia. HeartRhythm Case Rep. 2024 Feb 22;10(5):321-325.←13歳のATPで停止しない頻拍の症例報告
書籍
エキスパートはここを見る心電図読み方の極意 P80-87
心電図マイスターを目指す基礎力grade up講座 P63-66
心電図マイスターによる3→1級を目指す鑑別力grade up演習 P156-157