低カルシウム血症(Hypocalcemia)
低カルシウム血症とは、血漿タンパク質濃度が正常範囲内にある場合に血清総カルシウム濃度が8.8mg/dL(2.20mmol/L)未満、または血清イオン化カルシウム濃度が4.7mg/dL(1.17mmol/L)未満となった状態です。
原因には、副甲状腺機能低下症、ビタミンD欠乏症、および腎疾患があります。症状としては、錯感覚、テタニーのほか、重度であれば痙攣、脳症、心不全などがあります。
低カルシウム血症の心電図
複数の電解質異常が同時に発生すると心電図波形が著しく歪むことがあり、心電図異常が容易に認識できなくなります。
QT間隔の延長
最も一般的な低カルシウム血症の特徴的な心電図症状は、STセグメントの延長に伴うQT間隔の延長です2)。
低カルシウム血症は活動電位の第2相を延長します3)。さらに、カルシウムチャネルの機能および第2相のカルシウム流入は、細胞外カルシウムの変化率によって調節され、これらはすべてQT間隔に影響を与えます4)。
QT間隔の延長は低カルシウム血症の程度に比例しますが、それでもQTcが正常値の140%を超えることはまれです5)。
Torsades de pointes
低カルシウム血症が原因とされるTorsades de pointesの症例が報告されています6)。Torsades de pointesは潜在的に低カルシウム血症によって誘発されますが、その頻度は非常に低いです。低カリウム血症や低マグネシウム血症に比べると、低カルシウム血症による心室性不整脈などはまれです7)。
T波
T波の電位低下、T波の平坦化、終末T波陰転、または深い陰性T波は、重度の低カルシウム血症の症例でまれに報告されています8)。
ST低下
まれにではありますが、低カルシウム血症は急性心筋梗塞を模倣したST上昇やT波異常を伴うことがあります5)。これらの心電図異常は、冠動脈の痙攣に起因すると推測されています9,10)。
活動電位
低カルシウム血症では細胞外Ca濃度が低下しているため、Caの流入が発生する2相が延長することになります。それによりSTセグメントが延長し、結果的にQT間隔が延長します。通常T波の幅は変わりません。
参考文献
1)Hypocalcemia-Induced QT Interval Prolongation. Cardiology. 2022;147(2):191-195.
3)Electrolyte disorders and arrhythmogenesis. Cardiol J. 2011;18(3):233-45.
5)Electrolytes and the electrocardiograim. Postgrad Med. 1974 Jun;55(6):123-9.
6)Hypocalcemic Torsades de Pointes. J Electrocardiol. 1989 Jan;22(1):89-92.
7)Hypocalcemic syndromes. Crit Care Clin. 2001 Jan;17(1):139-53, vii-viii.
8)ECG abnormalities associated with hypocalcemia. Chest. 2001 Feb;119(2):668-9.
心電図の読み方パーフェクトマニュアル P220-221
実力心電図 P142-143