ユースタキオ弁(Eustachian valve)
ユースタキオ(ユースタキウス)弁とは、右心房内の下大静脈開口部に存在する薄い膜状またはひだ状の構造物です。下大静脈弁とも呼ばれ、下大静脈が右心房に開口する部分の前縁から右側縁に位置しています1)。

ユースタキオ弁は胎児期には下大静脈から右心房に流入した酸素に富む血液を卵円孔を通じて左心房へ誘導する役割がありますが、出生後は肺循環が確立するためこの機能は不要になって退縮します。成人では小さな膜状構造として残存することが一般的ですが、個人差が大きくほとんど確認できない場合もあれば、右心房内に大きく突出する場合もあります。

臨床的意義
心房粗動
ユースタキオ弁と連続するユースタキオ稜(Eustachian ridge)は、心房興奮の伝導障壁として機能することがあります2)。通常型心房粗動では三尖弁輪を旋回するマクロリエントリーが形成されますが、ユースタキオ稜はこのリエントリー回路の解剖学的境界の一部を形成します。

ユースタキオ稜は筋束の厚さによる解剖的障壁、横方向への伝導不良特性による機能的障壁によりユースタキオ稜を横切る方向への伝導をブロックしています(異方性伝導)。これにより興奮がショートカットして伝導することができないのでマクロリエントリーが成立します。つまり、ユースタキオ稜は単なる解剖学的構造ではなく、心房粗動の旋回経路を規定する電気生理学的構造と考えられます。
心房頻拍

ユースタキオ弁付近を起源とする心房頻拍も報告されています3)。ただし、下大静脈弁起源の心房頻拍に特異的な12誘導心電図のP波形態は、まだ十分に確立されていません。
