仮装脚ブロック(masquerading bundle branch block)
1954年にRichmanとWolffによって初めて報告された仮装脚ブロックは、胸部誘導で右脚ブロック、四肢誘導で左脚ブロックの所見を呈する心電図パターンです1)。「masquerading」は「仮装」「変装」「〜のふりをする」といった意味があります。これは、当時彼らが左脚ブロックが右脚ブロックに仮装していると考えていたために仮装脚ブロックと名付けられました。

仮装脚ブロックは、実際には左脚前枝ブロックを伴う右脚ブロックのバリエーションと考えられていますが2)、左脚後枝ブロックを伴う右脚ブロックでも見られるとする報告もあります3)。通常は心筋梗塞または線維化による心筋障害および左脚前枝ブロックの結果として生じます。

心電図上で仮装脚ブロックが認められることは、典型的な二枝ブロックと比較して、左脚伝導路と左室の広範な障害を意味し2)、完全房室ブロックへの進行リスクが高く、高い死亡率(41.4%)とペースメーカー挿入率(38.9%)を伴うことが報告されています3)。
心電図所見
仮装脚ブロックには、標準型(standard type)と前胸部型(precordial type)の2つのパターンが報告されています4)。

両者の共通点としてI誘導における幅広いS波の消失があります。右脚ブロックにおけるI誘導のS波は、右室の遅延した興奮伝導によって生じます。左室の前上壁の伝導が心筋障害により著しく遅延すると、左室からの興奮終末が右室からの興奮終末を上回ることでS波は減弱します2)。

標準型(standard type)

標準型の仮装脚ブロックでは、V1〜V6誘導の前胸部誘導は右脚ブロックを示唆しますが、肢誘導は左脚ブロックに類似します。I誘導においてS波消失を伴います。

前胸部型(precordial type)

前胸部型の仮装脚ブロックでは、V1~V3までの右前胸部誘導では右脚ブロックを認め、V4〜V6誘導までの左前胸部誘導は左脚ブロックパターンに類似します。V5、V6、I誘導では深く広いS波はみられません。

