エプスタイン奇形(Ebstein’s anomaly)

エブスタイン奇形は、三尖弁の弁輪が、本来の場所から大きく右心室側におちこんでいる先天性心疾患です。三尖弁機能の異常、右心室のポンプ機能の異常を来たし、心房中隔欠損を合併しているとチアノ-ゼを来たすこともあります。また、本来なら右室になるはずであった部位は心筋が菲薄化して右房化し、右房化右室と呼ばれます。重症型では、高度の三尖弁逆流のため右心房が肺を圧迫するほど著明に拡大する場合があります。

心電図所見

右房拡大
エプスタイン奇形では右房が拡大しますが、最大75%の症例で右房拡大を示唆するP波増高を認めます2)。著明な右房拡大をきたすとHimalayan P波と呼ばれる高くて幅の広いP波が見られます。
PR間隔延長
PR間隔は15%の患者で延長しますが、完全房室ブロックはまれです3)。PR間隔の延長は、房室結節伝導よりも心房伝導の遅延による影響が大きいです。副伝導路を介してpreexcitationがあってもPR間隔が正常であることも房室結節ではなく心房の伝導が遅延していることを表しています2)。
右脚ブロック
様々な程度の右脚ブロックが75~92%の症例で報告されており、これは三尖弁中隔尖と乳頭筋の発達異常によるものと考えられています4)。
QRS fractionation
右房化右室を介した遅い異常伝導のため、QRS波が分裂した形態(fragmented QRS)として現れることがあります5)。
WPW症候群
エプスタイン奇形では3分の1の症例で副伝導路を認め、多くは三尖弁下方に存在しています。

エプスタイン奇形で上室性頻拍を有する患者において、ベースライン時に右脚ブロックがない場合、右側副伝導路が存在する可能性が非常に高いです6)。これは、右脚ブロックで刺激伝導系から右室への伝導は遅延していますが、右側副伝導路を介して右房から右室に興奮が伝わるので伝導遅延が相殺されてQRS波が正常化して見えるからです。そのため、アブレーションで右側副伝導路を治療した後に右脚ブロックが顕在化することがあります。


参考文献
3)Ebstein’s anomaly; complete review of 108 cases. Am J Cardiol. 1958 Aug;2(2):210-26.
書籍
小児心電図のみかた、考えかた P111-115