房室解離(Atrioventricular dissociation)
房室解離とは、心房と心室の伝導が連動しておらず、心房と心室が別々のペースメーカで制御されている状態です。
分類
房室解離の原因は4つあります1)。
(2)補助ペースメーカの加速(Acceleration of a Subsidiary Pacemaker)
(3)ブロック(Block)
(4)干渉(Interference)
主要ペースメーカの減速
洞房結節は心臓の主要なペースメーカであり、最も速い自動調律速度を持っています。
房室接合部や心室の細胞も自動能を持ちますが、その興奮速度は洞結節の速度より遅いです。
・心室ペースメーカー細胞:20~40回/分
これらの遅いペースメーカは、通常、興奮の速い洞結節によって抑制されるため、補助ペースメーカと呼ばれます。
しかし、洞結節(主要ペースメーカ)が十分に遅くなると、心室を制御するために接合部ペースメーカまたは心室ペースメーカが出現し、房室解離が生じることがあります。
図1の上部
・4-9拍:約65拍/分にわずかに減速し、接合部ペースメーカが表面化
・最後の2拍:QRS波の末端に洞性P波
図1の下部
・最後の4拍:洞性P波がQRS複合体の前に再び現れる
補助ペースメーカの加速
接合部ペースメーカや心室ペースメーカが洞結節の興奮頻度を上回ると、洞結節が心房を制御している間に補助ペースメーカが心室を制御するようになり、房室解離が生じます。
図2は、洞調律が毎分75〜80回とやや不規則で、接合部調律が毎分88回と促迫している状態を示しています。
接合部調律は、心室では速度に依存した右脚ブロックが発生します。
・1、2、9、12、13拍:洞調律が心室への伝導が可能な時間に房室結節に到達したときに起こる捕捉収縮
図3は房室解離を伴う心室頻拍であり、補助ペースメーカーが洞結節の速度を超えて、心室をコントロールするもう一つの例です。
・QRS波:136拍/分の割合で発生
・P波とQRS波とは関連性がない
wide QRS頻拍に房室解離を認めれば心室頻拍と判断できますが、房室解離が見られない場合は心室頻拍では無いとは言えません。
◯房室解離ありのwide QRS頻拍→VT
✖️房室解離なしのwide QRS頻拍 ≠ VT
ブロック
房室解離という用語は、しばしば3度房室ブロックの同義語として誤って用いられますが、すべての房室解離が房室ブロックと関連しているわけではありません。また、3度房室ブロックを房室解離に含めないとする意見もあります。
図4は3度房室ブロックでの房室解離を表しています。
・QRS波:心室調律で40拍/分
・洞結節の興奮が心室に伝導されず、心房と心室が独立して拍動
図5は、3度房室ブロックを伴う心房細動の心電図です。
・QRS波:接合部補充調律が40拍/分
・心房細動の興奮が心室に伝導されず、心房と心室が独立して拍動
心房細動の場合、房室解離がない限り、決して心室のリズムは規則的にはなりません。
干渉
心房の興奮が心室に伝導することを障害するものは、すべて房室解離を引き起こす可能性があります。
房室解離は期外収縮によって生じる不応期によって生じることがあります。
図6は期外収縮によって生じる不応期によって生じる房室解離の例です。
・3拍目:接合部からの期外収縮(偏向伝導)によって、房室結節(ラダーグラムのAVレベルの灰色の部分)に不応期が生じ、次の洞結節の興奮が心室へ伝導するのを妨げている
・4泊目:心室補充調律が出現し、洞調律より速い約68拍/分の興奮で心室をコントロール
・下段5、6拍目:洞結節と心室補充調律の両方の興奮によって、2回の融合収縮が生じる
・下段7拍目:洞調律がわずかに加速して心室を再びコントロール
参考文献
1)Atrioventricular dissociation. AACN Adv Crit Care. 2007 Apr-Jun;18(2):221-4.
心電図の読み方パーフェクトマニュアル P326