肺性P波(P pulmonale)

肺性P波とは、COPDによる偏位や肺疾患による右房負荷を示す所見として知られています。P波は高くて尖鋭したピークを持ち、肺疾患でよく見られることから肺性と名付けられています。

定義
肺性P波は以下のように定義されます3)。

原因
偏位
肺性P波はCOPDでよく見られますが、COPDでは肺の過膨張により横隔膜が下がり、心臓を横から圧迫するので心臓が立位に近くなります。これを滴状心と呼び、心臓が垂直方向に偏位した状態となるため、心房の興奮も上から下へ向かうことになり下方誘導ではP波の振幅が大きくなります。

交感神経
肺性P波はCOPDを代表とする呼吸器疾患で見られますが、呼吸器疾患では低酸素血症やβ刺激薬で交感神経が亢進しています。洞結節の興奮部位は交感神経が亢進することでより上方に移動することが知られています。これにより心房の興奮がより上方から始まることになり下方誘導ではP波の振幅が大きくなります。

右房拡大
肺性P波は肺高血圧症など右心負荷を有する患者でも見られます。しかしながら、右房拡大などの解剖学的変化との相関関係は乏しいとする報告もあり2)、肺性P波は必ずしも右房負荷を示唆する所見ではないとされています。

肺高血圧症では肺動脈圧が上昇すると右心室に圧負荷がかかり、その結果として右心室の圧が上昇します。右心室の圧が上昇すると、さらにその手前にある右心房に圧負荷がかかるようになります。

しかし、右心房はもともと高い圧力に長期間耐えられるようにはできていないので、やがて右房は拡大します。心房は心筋量が少なく、収縮力も弱いため心房筋が厚く肥大することはないとされています。右房の拡大によって右房興奮のベクトルが下方に偏位するので下壁誘導においてP波は増高します。

右心房が拡大すると、右心房の興奮が遅れ、右心房と左心房の興奮するタイミングが通常より多く重なるようになります。右心房と左心房の興奮(脱分極)による2つの波形の和は、高く狭いP波を生じさせます。

洞調律の場合は右房は左房よりも早く興奮します。通常は右房の興奮は左房の興奮より遅れることはないので、P波の幅が延長することはありません2)。

参考文献
1)Instructive ECG series in massive bilateral pulmonary embolism. Heart. 2005 Jul;91(7):860-2.
3)P-pulmonale and new-onset atrial fibrillation. Circ J. 2014;78(2):309-10.
書籍
心電図の読み方パーフェクトマニュアル P70-71
ほぼ初めての心電図 P90-93, 155-158
あなたが心電図を読めない本当の理由 P9-13
心電図マイスターによる3→1級を目指す鑑別力grade up演習 P11-12
レジデントのためのこれだけ心電図 P205-209
今さら聞けない心電図 P48-49
心電図免許皆伝 P36-39