後壁心筋梗塞(posterior myocardial infarction)
心臓の後壁を灌流する冠動脈が虚血となり、後壁に心筋梗塞が生じた場合を後壁心筋梗塞と言います。後壁を灌流する冠動脈は一般的には左回旋枝になりますが、右冠動脈の場合もあります。

後壁とは左室の背面を指しており、上図のように左室を立方体で表すと赤色の部分にあたります。心臓を輪切りにした図では後壁は下図のようになります。

急性心筋梗塞の20%程度が後壁心筋梗塞であり、大部分は下壁または側壁の梗塞を伴って発生します1)。純粋な後壁のみの心筋梗塞はまれと考えられており、発生頻度3%程度との報告があります2)。

心電図変化

ST変化

後壁を反映する背部誘導(V7、V8、V9誘導)でST上昇し、ミラーイメージとして前胸部誘導(V1-4)でST低下を認めます。通常の12誘導心電図のみではST上昇が見られないので、前胸部誘導のST低下を見逃さないように注意が必要です。

背部誘導でST上昇の基準は隣接する2つ以上の誘導で0.5mm以上の上昇であり1)、通常用いられるST上昇の基準である1mm以上の上昇より小さいことに注意が必要です。これは背部誘導と心臓との距離が胸部誘導と心臓との距離より大きく、記録される電位が小さくなる為です。

R波増高
背部誘導の異常Q波のミラーイメージとして胸部誘導の特にV1誘導のR波が増高します。「R波の高さ>S波の深さ」となります。また、異常Q波を反映しているのでR波の幅は40msec(1mm)以上になります。反時計方向回転でもV1誘導のR波増高が見られるため鑑別が難しいことがあります。

T波増高
心筋梗塞に伴う心電図変化で背部誘導に陰性T波(冠性T波)が現れると、ミラーイメージとして前胸部誘導のT波は増高します。

参考文献
1)ECG Diagnosis: Isolated Posterior Wall Myocardial Infarction. Perm J. 2015 Fall;19(4):e143-4.
3)Posterior-Wall Myocardial Infarction. N Engl J Med. 2019 Oct 24;381(17):e32.
書籍
読み方だけは確実に身につく心電図 P236
心電図免許皆伝 P57-62
レジデントのためのこれだけ心電図 P128-131
心電図のみかた、考え方 応用編 P111-119