Ta波(Ta wave)
P波は心房筋の脱分極を表していますが、心房筋の再分極を表す波形も存在しておりTa波と呼ばれます。1912年にHeringが「心耳のT波(T wave of the auricle)」とその略称である「Ta波」を命名したとされています1)。
Ta波の極性はP波と逆であり、QRS波とT波の場合とは対照的です。Ta波の振幅はP波の約3分の1で 2)、持続時間はP波の2〜3倍となります3)。Ta波は振幅が小さいため、しばしばQRS波の中に隠れてしまいます4)。Pの開始からTaの終了までは心房の活動電位持続時間を表しており、心室のQT間隔に相当します。
房室ブロックのようにPR間隔が長い患者では、Ta波はP波の後に確認できます。そのためTa波の研究の多くは、Ta波とQRS波が結合していない3度房室ブロックの患者を対象としています3)。
Ta波によってST部分が影響を受けるため、ST低下やST上昇は基線と比較するのではなくPRセグメントの終末と比較されるべきとされています4)。
トレッドミル負荷試験での偽陽性
Ta波の増強は、運動負荷試験の偽陽性の原因となる可能性があります4)。トレッドミル負荷試験で運動による心拍数の上昇はTa波の振幅を大きくし、PRセグメントが低下してST部分を低下させる可能性があります7)。
上記の心電図はトレッドミル負荷試験中のものですが、心房期外収縮の直前のST低下と心房期外収縮の次の収縮のST低下を比較すると、期外収縮後のSTセグメントは他の波形よりも低下が少ないのがわかります。これは心房期外収縮によりPP間隔が長くなり、心拍数が低下した状態になったため、心拍数上昇により大きくなっていたTa波の振幅が小さくなったためです。
参考文献
2)Atrial repolarization as observable during the PQ interval. J Electrocardiol. 2006 Jul;39(3):290-7.
3)Detailed ECG analysis of atrial repolarization in humans. Ann Noninvasive Electrocardiol. 2009 Jan;14(1):13-8.←Ta波の持続時間はP波の形態に関係なくP波の2〜3倍であった。
4)Catch the Ta wave: a source of ST-segment elevation. Am J Med. 2014 Apr;127(4):288-90.←Ta波は心房梗塞や心房傷害の診断の重要な所見であり、心室梗塞の約17%にみられる。
5)The atrial T wave: The elusive electrocardiographic wave exposed by a case of shifting atrial pacemaker. J Electrocardiol. 2016 Jul-Aug;49(4):557-9.←二相性のP波ではPTaセグメントは平坦で振幅ゼロとシュミレートされた。
7)Atrial repolarization: its impact on electrocardiography. J Electrocardiol. 2011 Nov-Dec;44(6):635-40.←心拍数の上昇するほど、下壁誘導のP波は高くなり、PRセグメントの傾きが急であるほどTa波がST低下を引き起こす可能性が高くなる。